神奈川近代文学館で開催中された特別展「寺山修司展 ひとりぼっちのあなたに」
この展覧会は、寺山修司の秘書兼マネージャーをつとめた田中未知氏が長年収集・管理してきた資料を中心に構成されたそうです。
今年一年を締めくくるドリームレース・有馬記念。
2014年の春に行ってきた「寺山修司記念館フェスティバル2014/春」
そこで紹介された「風の吹くまま」
私にとって印象深いエッセイです。
こちらは、その日のブログです。
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寺山修司。
青森県出身。
詩人、歌人、小説家、劇作家、演出家、劇団主催者、映画監督、写真家、競馬評論家・・・
そして「職業・寺山修司」
「寺山修司記念館フェスティバル2014/春」に行ってきました。
寺山修司の命日「修司忌」を記念した、毎年恒例の春のフェスティバル。
昨年に引き続き、三上博史さんが寺山修司の珠玉のエッセイを披露してくださいました。
寺山氏の全仕事のなかで、ひときわ異彩を放つ一群の作品があります。
それは18年間にも渡ってスポーツ紙の片隅に書き継がれた「競馬エッセイ」です。
競馬エッセイ集の草分け的存在となった本「競馬場で会おう」は有名な一冊ですが、私の頭から離れないエッセイが掲載されている「風の吹くまま」からこちらをご紹介したいと思います。
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風に吹かれて
師走の寒い風が吹くころになると、楽しみが一つある。
それは、別れた女が送ってくれる有馬記念の前日発売の馬券である。
馬券の目は私の年であって、三十七歳だったおととしは③-⑦、三十八だった去年は③-⑧だった。私は今年三十九歳になったのだが、③-⑨という目がないので、おそらく③と⑨という馬番になることだろう。
③はタニノチカラ、⑨はホウシュウエイトで、③-⑧である。
私はハイセイコーの最後のレースなので、なんとかしてハイセイコーが③ワクにくることを念じていたが、①ワクにいってしまった。だから、やむをえず、ハイセイコーが負けることを願わねばならない。
別れた女は、住所がどこだか─いまだれと住んでいるのか消息は全くわからない。だから私は、切手の消印で、女の住んでいる土地を推測するほかはないのである。去年は目白の消印だったが、今年はどこに住んでいるのだろうか?
レースはおそらく、トーヨーアサヒの逃げで始まるだろう。ハイセイコーは好位につけていくという展開だが、福永のホウシュウエイトが、展開を左右することになるような気がする。これが最後のレースとなるハイセイコー、タケホープは、ここで宿命の対決に決着をつけることになるのだが「終わりよければすべてよし」ここで勝った方が、生涯語り草になる気がする。ハイセイコーは、絶好調ではないという声を聞く。実際、この秋にはいいところがなかった。それでも、ハイセイコーも買っておきたい気もする。自分で買えば、①、③、⑦の先行ワクの三つどもえにするのだが、送ってくる馬券に悪いので、自分では買わない。
ともかくも一年にたった一日、それもたった二分半だけ、別れた女と同じ夢を描くことができるというのもいいではないか。そして、この馬券が送ってこなくなったとき、私は師走のほんとの寒さを知ることになるだろう。タニノチカラの健闘を祈る。
・・・春の日差しのなか、三上博史さんの透明感のある深い声、エミ・エレオノーラさんとぴったり息の合ったライブは印象深く、私を寺山ワールドに連れて行ってくれました。
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